2026.05.22
動画制作会社への依頼前に確認すべき「再委託禁止条項」|基本契約書・NDAから読むリスク
動画制作の発注で交わす業務委託契約書には、ほぼ例外なく「再委託禁止条項」が含まれます。一方で、発注先のなかには撮影・編集の実作業を外部のフリーランスに委ねている動画制作会社もあり、この場合は契約条項に抵触した状態で案件が進んでしまうおそれがあります。
本記事では、再委託禁止条項とNDAの条文表現から再委託承諾の実務負担、違反発覚時に発注者が抱えるリスクまで、法務・調達担当者が発注前チェックに使える形で解説します。
目次
動画制作の発注で交わす3つの契約書
動画制作会社への発注では、以下の3つの契約書類を取り交わすのが一般的です。
- 基本契約書(業務委託約定書)
- NDA(秘密保持契約書)
- 個別の注文書・発注書
それぞれ役割が異なり、組み合わせで発注者・受託者の責任範囲を定めています。発注前に各書面の内容を押さえておくことが大切です。
基本契約書(業務委託約定書)
基本契約書(業務委託約定書)は、発注者と受託者の間で繰り返し発注を行う際の基本ルールを定める契約です。主に以下のような条項が一通り含まれます。
- 再委託禁止条項
- 秘密保持
- 知的財産権の帰属
- 契約期間
- 検収方法
- 損害賠償
- 契約解除
一度締結すれば個別案件ごとに結び直す必要はないため、発注先選定の段階で内容を精査しておきたい書類です。
NDA(秘密保持契約書)
NDA(秘密保持契約書)は、発注者から開示される秘密情報を受託者が適切に管理することを定める契約です。ほぼ全ての映像制作案件で締結され、案件の進行で受託者が触れる以下のような機密情報を保護する役割を担います。
- 未発表商品の情報
- 経営情報
- 出演者の個人情報
NDAは基本契約書の中に秘密保持条項として含まれるケースと、別契約として独立して締結されるケースがあります。機密度の高い案件では、案件ごとに別途NDAを締結し直すことも珍しくありません。
個別の注文書・発注書
個別の注文書・発注書は、案件ごとの具体的な業務内容・報酬・納期・納品物を定める書類です。基本契約書とNDAが「枠組み」を定めるのに対し、注文書・発注書は「この案件で何をどう進めるか」を確定させます。
案件によっては、以下のような情報管理ルールが追記されることもあります。
- 撮影場所の指定
- 機密情報の取扱範囲
- 立ち入り監査権
とくに上場企業の機密案件では、注文書段階で踏み込んだ管理条項が加わる傾向があります。
業務委託契約書の「再委託禁止条項」に含まれる内容

再委託禁止条項は、業務委託契約の実務で広く用いられる規定です。動画・映像制作の業務委託契約も例外ではなく、発注先の制作体制がこの条項に適合しているかは、契約締結前の重要なチェックポイントになります。
条項は通常、「原則禁止」「例外としての書面承諾」「違反時のペナルティ」の3つの要素で構成されます。こちらでは、それぞれの内容と実務上の意味を見ていきましょう。
第三者への委託を原則として禁止する
再委託禁止条項の典型的な条文は、「受託者は、本業務の全部または一部を第三者に委託してはならない」というものです。
「再委託」とは
受託者が請け負った業務の全部または一部を、自社の役員・従業員以外の第三者(別法人や個人事業主など)に行わせること。社外のフリーランスや外注先への業務委託が該当する。
条文の目的は、品質責任と情報管理責任の所在を受託者に一元化することにあります。受託者がさらに別の事業者に業務を委ねていれば、責任の所在は複雑になり、損害発生時の対応も遅れがちに。発注者から見れば、責任追及のラインが「発注者→受託者」で完結する単純な構造のほうが、トラブル時の対応も明確になります。
なお、受託者(制作会社)の正社員による制作は「再委託」には該当しません。再委託禁止条項が問題になるのは、受託者から社外の第三者へ業務が委ねられた場合に限られます。
書面による事前承諾を例外として認める
再委託禁止条項には、「ただし、発注者の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りでない」という但書が続くケースが一般的です。但書がある以上、再委託が完全に不可能になるわけではありません。
ただし、口頭やメールでの承諾は認められず、書面(押印、または電子契約サービス経由)が求められる場合がほとんど。承諾を得るためには、再委託先の社名・業務範囲・情報管理体制などを文書で開示する必要があります。
違反時には契約解除と損害賠償の対象となる
無承諾での再委託が発覚した場合、契約解除や損害賠償請求の対象となります。違反の程度や情報漏洩の有無により、責任の範囲は変動します。軽微な違反でも是正対応や顛末書の提出といった対応を迫られ、重大な情報漏洩を伴う違反では、取引停止や法的責任の追及にまで発展することも。
後者の場合、発注者に発生した実損害に加えて、信用毀損による無形損害の請求にまで及ぶケースもあります。再委託禁止条項に違反した状態を放置することは、双方にとって極めてリスクの高い状況といえます。
再委託の事前承諾を出す場合に発注者が背負う負担

再委託禁止条項に但書がある以上、発注者が承諾すれば再委託は可能です。ただし、その判断自体に実務負担が伴い、手続きには通常2〜4週間程度を要するため、安易に出すべき性質のものではありません。
発注者側で発生する負担は、主に以下の3つです。
- 受託者からの書面申請の確認作業
- 法務・調達部門での稟議対応
- 承諾後の再委託先に対する管理責任
それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
受託者からの書面申請の確認作業
再委託の承諾を出すためには、受託者から提出される申請書類を発注者側で精査する作業が必要です。申請書類には、再委託先の事業者情報、契約条件、情報管理体制などが含まれるのが通例。
発注者側では、自社の調達基準に照らして再委託先の妥当性を確認します。内容に不備があれば差し戻し、再提出を求めるため、申請から承諾までに数往復のやり取りが発生することも少なくありません。
法務・調達部門での稟議対応
再委託の承諾は、単独の担当者で決裁できないケースが多く、法務部門・調達部門、場合によっては情報セキュリティ部門での稟議を経るのが一般的です。
稟議に必要な資料の取りまとめ、関係部署への説明、決裁者ごとの追加質問への回答などが発生し、現場担当者の工数を圧迫しがちに。案件単位ではなく取引先単位で包括承諾を取りたい場合は、より上位の決裁が必要になります。
承諾後の再委託先に対する管理責任
承諾を出した後は、再委託先に対する管理責任も発注者に一定範囲で及びます。情報漏洩や納期遅延が再委託先で発生した場合に、発注者の管理が不十分だったとして責任を問われる可能性があるためです。
監査対応、年次の更新審査、契約終了時の証跡確認など、承諾後にも継続的な管理工数が発生します。
再委託禁止条項とあわせて押さえるべきNDAの規定

ここまで再委託禁止条項を見てきましたが、もう一つ押さえるべき契約書がNDA(秘密保持契約)です。NDAには受託者に対して複数の重要な規定が課され、再委託禁止条項と一体で機能します。
NDAに含まれる主な規定は、以下の3つです。
- 開示範囲は「役員及び従業員」に限定される
- 善管注意義務に基づく情報管理が求められる
- 契約終了後も秘密保持義務が存続する
なお、個別の注文書・発注書では、撮影場所の指定や立ち入り監査権など、案件固有の情報管理ルールが定められるケースもあります。
「NDA(秘密保持契約)」とは
発注者から開示される秘密情報の取り扱い、開示範囲、管理方法、契約終了後の存続義務などを定める契約。情報の流出を防ぎ、漏洩時の責任を明確化することを目的とする。
開示範囲は「役員及び従業員」に限定される
日本の上場企業のNDAでは、秘密情報の開示範囲を「自社の役員及び従業員」に限定する文言が標準的に使われます。ここでいう「役員及び従業員」とは、受託者と直接の雇用関係(または役員契約)にある人員を指し、フリーランスや業務委託契約のスタッフは、原則として開示範囲に含まれません。
受託者が外部のフリーランスに秘密情報を共有するには、発注者の事前承諾が改めて必要になります。
善管注意義務に基づく情報管理が求められる
受託者は業務遂行中、善管注意義務に基づいて秘密情報を管理する義務を負います。具体的には、案件の機密度に応じて以下のような対策が求められます。
- 社内LANの分離
- 入退室管理
- データの暗号化
- アクセス権限の限定
- データの持ち出し禁止
「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」とは
契約上、その立場に通常求められる注意を払って業務を行う義務。映像制作の受託者であれば、業界水準で求められる情報管理水準を確保する責任を負う。
自社のセキュリティ規程やプライバシーマーク・ISMSの運用と整合する形で情報管理を行うことが、善管注意義務を果たす土台になります。
契約終了後も秘密保持義務が存続する
契約が終了した後も、秘密保持義務は契約書に定める期間(3年、5年、無期限など)で継続するのが一般的。経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック(令和6年2月改訂版)」の参考資料2には、業務委託契約書の例として、秘密情報の管理義務や再委託の制限を定める条項例が示されています。
契約終了後は委託先との取引関係がなくなるため、退職者や元スタッフへの教育、情報持ち出し防止策の運用は、制作会社の人事管理に委ねられます。発注者は、契約が終わった後も適切な情報管理を継続できる取引先かを、発注前の段階で見極める必要があります。
マッチング型の動画制作会社で発生する契約上の問題
マッチング型の動画制作会社は、フロントのディレクターは正社員でも、実作業を外部のフリーランスに委託する体制をとっているケースが一般的です。
マッチング型と内製型それぞれのビジネスモデルや違いは、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:動画・映像制作会社はマッチング型と内製型どちらを選ぶべき?契約リスクで徹底比較
なお、2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、フリーランスへの業務委託では書面による取引条件の明示や、受領日から60日以内の報酬支払期日の設定などが義務化されています。
参考:フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024年11月からスタート!
制作実務をフリーランスに委託するため再委託禁止条項に抵触する
マッチング型の体制では、契約上の受託者である動画制作会社と、実際の作業者であるフリーランスが分離しています。撮影・編集・CG・ナレーションなどの工程を外部のフリーランスに依頼する場合、これらは再委託禁止条項上の「再委託」に該当します。
発注者の事前承諾を得ずに作業が進められていれば、再委託禁止条項に違反した状態になります。
フリーランスへの情報共有はNDAの開示範囲を超える
NDAの開示範囲は「役員及び従業員」に限定されているため、フリーランスは契約上の開示対象に含まれません。マッチング型でフリーランスに台本・絵コンテ・撮影素材・未発表商品情報などが共有されていた場合、NDAの開示範囲を逸脱していることになります。
再委託禁止条項とNDAは別の規定ですが、マッチング型の体制では両方に抵触しやすくなります。
発注者からは制作実態が見えにくい
発注者の窓口には正社員のディレクターが立つことが多く、契約上の受託者だけが表に見える状態です。撮影現場や編集スタジオに発注者が立ち会わなければ、誰が実作業を担当しているかは把握しにくくなります。
その結果、無承諾の再委託やNDA違反が発生していても、事故が起きるまで気づきにくいのが実情です。事後対応となるため、発注者・受託者の双方に大きな負担が生じます。
契約違反が発覚したときに発注者が抱えるリスク

再委託禁止条項やNDAに違反した状態が発覚した場合、責任の一部は発注者にも及びます。とくに未発表商品の紹介映像やIR関連動画など、機密性の高い案件では情報漏洩時の影響が大きくなります。
発注者が抱えるリスクは、「社内処分」「法的責任」「取引先との信用毀損」の3つに大きく分かれます。こちらでは、それぞれのリスクを見ていきましょう。
社内コンプライアンス上の処分対象となる
社内監査・内部通報・コンプライアンスチェックの過程で契約違反が発覚した場合、担当者や所属部門が社内処分を受ける可能性があります。発注先の選定経緯や、契約書を十分に精査したかが追及される場面です。
是正対応として、契約の巻き直し、再委託先の管理体制の追加検証、案件の差し戻しといった追加工数が発生します。コンプライアンス部門を巻き込む対応となるため、関係部署の負担も小さくありません。
情報漏洩が発生していた場合は法的責任を追及される
フリーランスを経由した情報漏洩が発生していた場合、発注者側の情報管理体制も問われます。委託先の管理が適切だったか、契約上の管理責任を果たしていたかが、訴訟や行政指導の場面で論点となります。
情報の性質によっては、複数の法令が関わる事態に発展することも。たとえば個人情報が含まれていれば、個人情報保護法第25条で定められた委託先の監督義務の責任を問われます。未公表の有価証券関連情報を扱う案件では、金融商品取引法に基づく責任も視野に入ります。案件ごとに関係しうる法令は異なるため、発注前に取り扱う情報の性質を整理しておくことが重要です。
取引先との信用関係が損なわれる
取引先からのベンダー登録更新、信用調査、監査の過程で再委託の実態が判明した場合、信用関係に影響が及びます。既存案件の継続だけでなく、今後の発注機会も見直される可能性も。
一度の契約違反が業界内に広く知られると、関連する取引先からの信頼まで損ねるおそれがあります。短期的な納期や価格を優先して契約条項を軽視すると、結果として複数の取引先からの信用を一度に失う事態にもつながりかねません。
内製型の動画制作会社が再委託禁止条項に抵触しない理由

内製型の動画制作会社であれば、再委託禁止条項に抵触しない構造になっています。NDAの開示範囲も同時にクリアできるため、契約条項に沿って発注を進められる点が大きな特徴です。
内製型が再委託禁止条項に抵触しない理由は、以下の3つです。
- 第三者への業務委託が発生しない
- 企画・撮影・編集の全工程を社内で完結できる
- 契約上の管理責任が受託者に一元化される
それぞれの理由について解説します。
第三者への業務委託が発生しない
内製型の動画制作会社は、企画・撮影・編集・CG・ナレーションといった全工程を自社の正社員で対応します。第三者への委託が発生しないため、再委託禁止条項に抵触しません。
NDAの開示範囲である「役員及び従業員」も逸脱せず、秘密情報は社内で完結します。契約条項に沿った情報管理が、制作体制そのものによって成り立つ仕組みです。
企画・撮影・編集の全工程を社内で完結できる
自社で撮影スタジオや編集設備を保有していれば、業務場所の指定や立ち入り監査権といった個別発注書の規定にも対応しやすくなります。撮影場所が外部スタジオに分散しないため、発注者側の監査対応も簡素化されます。
社内LAN・入退室管理・データ保管ルールを自社基準で統一できる点も、内製型の強みの一つ。機密度の高い案件でも、契約書で求められる管理水準を一貫した運用で担保できます。
契約上の管理責任が受託者に一元化される
正社員による一貫した情報管理体制により、契約上の管理責任が制作会社内で一元化されます。再委託承諾の手続きや、再委託先の管理責任に関する追加合意が不要なため、契約締結から制作開始までのリードタイムが短縮されます。法務・調達部門での稟議もシンプルになるため、社内決裁のハードルも下がるでしょう。
動画制作会社JPCは、企画・撮影・編集・CG・ナレーション・配信まで、約70名の正社員クリエイターによる全工程内製で対応しています。東京・京都の自社スタジオを拠点に、上場企業をはじめとする機密性の高い案件にも多数の対応実績があります。
動画制作の発注契約に関するよくある質問
本記事のテーマである再委託禁止条項・NDA・契約違反リスク・内製型のメリットに関連して、法務担当者・調達担当者からよく寄せられる質問を整理しました。
再委託禁止条項に違反した場合、どんなペナルティがある?
一般的なペナルティは、契約解除と損害賠償請求です。違反の程度や情報漏洩の有無で責任の範囲は変動し、重大な違反では取引停止・社内処分・法的責任にまで発展することがあります。
動画制作の場合、未公開素材や未発表商品の情報が外部に流出すれば、損害額はさらに大きくなる傾向があります。
再委託の事前承諾を得るのに何日くらいかかる?
通常2〜4週間程度が目安です。提出書類の確認、社内稟議、関係部門の合議によって変動します。
動画制作のように制作期間が比較的短い案件では、この承諾期間が納期に直接影響するため、発注前に再委託の有無を確認しておくことが大切です。
NDAに違反した場合、損害賠償はどこまで請求される?
情報漏洩により発注者に発生した実損害が請求対象です。未発表商品・IR関連情報など機密度が高いほど損害額が大きくなる傾向にあり、信用毀損による無形損害や差止請求にまで及ぶケースもあります。
動画制作では、撮影素材や台本・絵コンテといった制作過程の中間成果物も漏洩リスクの対象になります。
契約終了後、秘密保持義務は何年存続する?
契約書の文言により3年、5年、無期限などに分かれます。退職者・元スタッフへの情報管理は、人事側の対応に依存する部分も大きいのが実情です。
動画制作会社の場合、撮影素材・編集データが社外のフリーランスの手元に残っているケースもあり、契約終了後の素材回収・消去の運用も確認が必要です。
まとめ
動画制作の発注契約では、基本契約書・NDA・個別発注書という3つの契約書類で複数の規定が定められます。なかでも再委託禁止条項(再委託の原則禁止)とNDA(開示範囲を「役員及び従業員」に限定)の2つは一体で機能し、いずれかに違反した状態が発覚すれば、発注者にも社内処分・法的責任・信用毀損のリスクが及びます。
発注前に確認しておきたいのは、次の5項目です。
- 制作スタッフの雇用形態(正社員か、フリーランスへの委託か)
- 撮影・編集・CGなどの作業場所
- 再委託の有無と、発生する場合の事前承諾手続きの対応方針
- NDAの締結範囲と、開示対象に含まれる関係者
- 機密案件における情報管理体制(社内LAN・入退室管理・データ保管)
動画制作会社JPCは、約70名の正社員クリエイターによる全工程内製で動画制作に対応しています。東京・京都の自社スタジオで企画から撮影・編集・CG・ナレーション収録まで完結し、社外のフリーランスへの委託は発生しません。上場企業の機密案件・IR動画・未発表商品の紹介動画など、契約面の厳格さが求められる案件にも多数対応してきた実績があります。
再委託禁止条項・NDAに適合した制作体制で動画・映像制作の発注をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
